食べ物のはなし

　食べ物と病気との関わりは深い。
　私は七、八才の頃に腎臓炎にかかり、入院したことがあった。その腎臓炎は食事の制限がきつく、塩分は禁止、したがって醤油の味つけなどは一切だめであった。
　その頃に最も口にしたのがりんご汁であった。りんごをすって絞った汁を飲むのである。これが一番、と母親はよくこれを作って私に飲ませた。腎臓病は完治するまでに何年もかかる病気なため、風邪をひくとそれが再発の引き金にならないようにと、よくこのりんご汁を飲ませたのである。そのうちにそれが習慣となって、病気というとりんご汁を連想するようになった。だから私の中には今でも病気とりんごが分かちがたく結びついていて、風邪をひくとつい、りんごを食べなければいけないと思ってしまうのである。
　この入院のときのもう一つの思い出がカレーパンである。今でもそのときの光景をはっきりと思い出すことができる。病院には、当時保育園に通っていた妹がほとんど毎日のように見舞いに来ていた。昼をちょっとまわった頃にやって来て、私のベッドのそばに座ってパンを食べ始める。その時よく食べていたのがカレーパンであった。私はもちろんそんなパンは食べられない身。ただただ羨ましく、妹がおいしそうに食べるカレーパンを眺めていた。
　しかし、それも遠い過去になった。今ではなんでも食べられる。カレーパンはあまり食べないが、カレーライスはよく食べる。特に妻の作るカレーライスが大好きである。
　彼女はカレーにりんごの隠し味を入れるという。そのりんごとカレーが、私の子供時代の思い出に訴えかけるのだろうか、私にはそれが特別おいしく思えるのである。