食べ物のはなし

　今ではあまり見ることのなくなったコッペパン。ホットドッグ用のパンを大きくしたような、長さが２０センチから２５センチくらいのパン。形だけはフランスパンを短くしたようであるが、パサパサしていてそれだけではあまり味もない。当時はその腹のところに包丁を入れて二つに割り、中にバターやジャムやピーナッツを塗って食べた。大きさの割には安かったので、子供の頃それをよく買った。
　コッペパン一つが一回の食事だった。
　近所のパン屋さんで、「コッペパンにバター一つ」などと言って買った。物もない時代だったから、バターと言ってもどんなものを使っていたか分からず、それを薄く、薄く店の人は塗った。「ケチ」と思ったが、それを仕方なく食べた。そのうち、片側にバターを、もう一方にジャムを塗る「ジャムバター」というものも出来た。
　お金が少しある時は、このコッペパンとコロッケを買い、コッペパンにコロッケを挟んで食べた。それは最高の贅沢だった。
　しかし何時のころからか、そのコッペパンを見なくなった。今は食パンが主流で、他にフランスパンや、色々な手をかけたパンが店に並んでいる。私は今風のパンはあまり食べないから、もっぱら食パンを求めるが、たまにその食パンにコロッケを挟んで食べたくなる。
　私は二枚の食パンにコロッケを二つ挟んで、それにかぶりつく。コロッケがパンからはみ出る。それにまた食いつく。妻は、そんなにいっぱい挟まなければ、と言うが、それでは満足しない。私はコロッケパンに挑むように再び口を大きく開ける。それはまるで、子供の頃のひもじさを今満たしているかのようである。