食べ物のはなし

　普通おかゆは病気の時に食べる。子供の頃、病気がちであった私は母がつくったおかゆをよく食べた。
　塩で味つけした、ゆるい粥状のご飯であるおかゆを梅干と一緒に食べた。簡素そのものであるが、病気の時にはそれがおいしかった。
　25年ほど前のことになるが、妻が一年ほどスペイン語の勉強のためにスペインに行っていた時期があった。その間、私は自分で料理を作らねばならず、おにぎりを作ることに失敗し、てんぷらを揚げることに失敗した。しかしそれでも病気にはならず、それ故おかゆを食べることもなかった。
　しかし、思わぬところでそれを作ることになった。
　私は冬と夏の二度、スペインの妻のところに行って、彼女の案内でスペインの町や村を見てまわった。だが夏に行った時には、恐らく疲れからであろう、途中彼女が病気になって、一週間ほど起き上がることができなかった。
　私はスーパーに食料を買いに行き、そしてその時初めて、それもスペインの米でおかゆを炊いたのである。
　もちろん、妻は不平を言わずにそれを食べた。
　これが、今までに私が彼女のために作った、最もおいしい料理である。