食べ物のはなし

　私が小学校の４年生か５年生の時に、家庭科でドーナツを作る実習があった。材料を買ってきてドーナツを作り上げるのである。
　小麦粉にふくらし粉を混ぜ、それに卵と砂糖を入れてよくこね、ドーナツの形にし、油で揚げる。その一通りを行うのである。
　私たちが喜んだのは言うまでもない。学校で料理をする、それもお菓子のようなパンを作るのである。きゅうりやさつまいもがおやつだった当時のこと、みんな目を輝かせてそのドーナツ作りに取り組んだ。
　先生の指導の下で段々とドーナツができていく。そして最後は試食である。
　少し焦げた、いびつなドーナツを手に取る。少し苦いが、間違いなくドーナツだ。うまい。
　その感激は大きかった。私たちは早速自分たちでこのドーナツを作ろうと相談した。男ばかり数人が友達の家に集まり、小遣いで材料を買い、学校で習った通りにドーナツ作りに励んだ。それは一度だけではなかった。成功と言えるほどのものはあまりできなかったが、それに一時期熱中した。
　私にとっての言わばドーナツの原点である。だからなのだろう、何十という種類のドーナツを売っている「ミスタードーナツ」に入っても、注文するのは、その時のものに近い「オールドファッション」である。
　「少し苦味が足りないな」
　などと思いながらそれを食べるのも、きっとあの時の味が舌に記憶されているからなのだろう。