食べ物のはなし

　きゅうりは生で食べても、ぬか味噌漬けにしても、塩漬けにしても、おいしい。色々な食べ方があるが、最も簡単なのが、生のきゅうりに味噌をつけて食べる方法である。
　子供の頃は菓子類がほとんどなかったから、野菜がおやつであった。きゅうりもその一つで、生のきゅうり一本が手渡され、それに味噌をつけてよく食べた。
　さっぱりとした味のきゅうりと味噌の取り合わせは、大人風に言えばなかなか乙で、きゅうりをかじってはその切り口に味噌を塗り、かじっては塗りかじっては塗りして食べた。
　「パキン、サクサク、パキン、サクサク」
　生きのいいきゅうりは、先をくわえて曲げるとよく折れた。きゅうりの外面のイボイボは滑り止めとなって手に馴染み、その外皮の緑と中身の白の対比がみずみずしかった。それに味噌の茶が彩りを添えた。それをただがむしゃらに食べた。
　時代も変わって、もうそんな風にきゅうりを丸ごと食べることはない。しかし、きゅうりに味噌をつけて食べることは今でも時々ある。適当な大きさに切られたきゅうりを手または箸でつまみ、味噌をちょっとつけて食べる。ビールのつまみなどにも良い。
　「ポキッ、ポリポリ、ポキッ、ポリポリ」
　まるごと食べる豪快さはないが、これはこれでまた乙なものである。