哀しみは映画と共に

　「どうしようかな」
　親友が結婚することになって、姪がショックを受けていた。結婚しないでもやっていこうと、その親友と約束したばかりだったからだ。
　「大変だね」
　私は同情するように言った。彼女は、つい最近見合いをしたのだが、それが駄目になって当面の目処はなかった。出会いの機会も限られていて、すぐに次の人を見つけることも難しかった。
　「職場で見つけられると一番いいのだけれどね」
　私は幸運だった自分の場合を考えてそう言った。出会いは偶然的な要素が大きいが、それがまた決定的に重要だった。
　アメリカの映画に「ウエストサイド物語」というミュージカル映画があった。貧しい下町の二つのグループの対立を描いたもので、一つはヨーロッパ系移民の「ジェット団」、もう一つがプエルトリコ系移民の「シャーク団」である。
　その二つのグループがダンス場でダンス合戦をし、にらみ合う。しかしその場で敵対するグループの男女、ジェット団の元リーダーとシャーク団のリーダーの妹が一目で恋に落ちる。彼は夜、アパートの外からマリア、マリアと彼女の名を呼び、二人は外階段のところで互いの愛を打ち明ける。
　二つのグループは決闘を決める。それを知ったマリアは恋人にその決闘を止めるように頼む。彼は彼女のことを思い、素手で決闘させることを両者に約束させるが、決闘場では途中から互いにナイフを抜き合い、成り行きから彼女の兄である相手のリーダーを彼は刺し殺してしまう。マリアは彼に逃げるようにいい、彼は自分が働いているドラッグ・ストアに身を隠す。
　彼女は兄の恋人に、彼を逃がすための伝言を頼む。しかし、彼女が彼の隠れている店に行くと、そこに集っていた彼の集団に辱められ、彼女は怒って、マリアは死んだと嘘を言ってそこを去る。それを知ったマリアの恋人は自暴自棄になり、外に出て「俺を殺せ」と叫んで回る。事の成り行きを聞いたマリアは彼を探しに走り、金網に囲まれた広場で互いに相手に気づく。二人は走り寄ろうとするが、そのとき恋人が撃たれる。マリアに好意を寄せていた青年が撃ったのだった。
　マリアは駆け寄り、彼を抱きとめるが死んでしまう。彼女は一度に兄と恋人を失ってしまった。
　涙を抑え、彼女は立ち上がる。遺体を彼のグループが抱え上げようとし、それを相手も手伝う。彼らはその遺体を先頭に、一緒になってその場を立ち去る。
　音楽とダンスが、若者の葛藤と衝突、愛を、そして次の時代への希望を描く。躍動と緊迫。それが画面から圧倒的な迫力で伝わってくる。

　「僕は、たまたま近くにいたからなー」
　一目ぼれというのではなかったが、時間をかけて結婚に到達し、破局の危機を迎えることなく現在に至っている。途中に葛藤や衝突はあったが、映画のような社会的制約からくる悲劇もなく、無事にここまでやって来た。
　「幸せだね」
　姪がふと漏らしたが、そうなのだろう。その彼女を見、映画を思うとき、この妻との平穏無事、その有り難さをしみじみと思うのだった。

　１９６１年　アメリカ映画
　監督　ロバート・ワイズ、ジェローム・ロビンス