哀しみは映画と共に

　家に、普通の座布団を二枚分つなぎ合わせたくらいの長い座布団がある。二人で座ることもできるが、昼寝の時などの敷布団代わりにもなる。丸めれば枕にもなり、一枚を敷き、もう一枚を枕にすれば寝心地はいい。うたたねに最適で、そのようにして利用することが多かった。ただ、それを妻が占領していることが多く、たいてい私は畳の上に直に、腕枕で寝ることを余儀なくされた。しかし、最近電気カーペットを入手し、それが敷布団代わりとなって、座布団はもっぱら枕として使うことが増え、私もその一つを確保できるようになった。
　インドネシアの映画に「枕の上の葉」というのがあった。インドネシアの都市で暮らすストリート・チルドレンを描いたものである。
　１９９７年、インドネシアの都市、ジョグジャカルタ。そこで露天商を営む女性。彼女は、僅かな稼ぎも夫に持っていかれてしまうというわびしい生活を送っているが、近くの倉庫に寝泊りしている三人のストリート・チルドレンの面倒をなにかと見ている。彼ら三人は兄弟のように仲がよく、残飯あさりや靴磨き、時には物を盗んだりして生活している。シンナーを吸ったりするが、車の行き交う大通りを渡れない少女を助けたりする。
　彼らは露天商の彼女を母親のように慕い、彼女の破れた枕を奪い合う。その枕に、彼女は子供たちのためにとお金を入れていた。
　一番下の少年は、枕をみやげに弟と再会することが夢だった。ある日、その少年は、子供が持っていたきれいな枕を盗み、故郷に帰ろうと列車の屋根に登る。そしてトンネルに頭をぶつけて死んでしまう。彼を探していた一番上の少年は、列車の屋根の上で血に染まった枕を見つけ、大きなショックを受ける。
　その彼が、マフィアの犠牲になりゴミ捨て場から死体で発見される。彼らは、少年を騙して架空の身分証を偽造し、保険金をかけ、彼を殺して保険金を得ようとしたのだった。二人の子供を失い、母親代わりの女性は深い孤独感に襲われる。
　真中の少年も、殺し屋の手によって誤って殺されてしまう。彼女は少年を埋葬しようとするが、身分証がないためどこの墓地も受け付けてくれない。彼女は事件を報じるテレビ・レポーターに、なぜ埋葬できないのかと訴える。イスラム教では、埋葬しないことは死者への冒とくだった。
　三人の少年が死に、その地区は再開発のため閉鎖される。子供たちを呼ぶ彼女の声がうつろに響く。大通りでは少女が道を渡れずに立ちすくんでいる。
　枕の上の葉。枕とは母を、葉は小さな命を意味している。

　座布団を枕に、横で妻が寝ている。いつものように見たい番組があるからとテレビを付け、そのまま寝入ってしまったのだ。軽いいびきが聞こえてくる。枕の上の無防備な顔。時々声をかけると、一瞬目を開くが、また夢の世界に入っていく。美しいとはいえないが、満足そうである。寝心地がよいのだろう。
　枕の上の葉。枕は母であり、安らぎをもたらし、子供たちはそれを求めた。

　１９９８年　インドネシア映画
　監督　ガリン・ヌグロホ