街の小さな音楽会

　７月に入ると、隆は９月のコンサートに向けての行動を開始した。その第一段階としてコンサートへの出場者募集の案内を作った。形式を整え、コンサートへの雰囲気を盛り上げようとしてであった。
　彼はコンサートの名称を「サザ・コンサート」とした。会場となる喫茶店の名前から採ったもので、明美の提案していたものだった。簡潔で響きも良く、その洒落た感じが彼も気に入っていた。そうしてコンサートの名前はすぐに決まったが、それにどんな副題をつけようかと彼は悩んだ。副題でコンサートの趣旨が分かるようにしたいと思っていたので、それは重要だった。最初、「大人の大人による大人のためのコンサート」としたが、それは長くてもたもたした感じがしたので取り止めた。そして素直に「秋の夕べを音楽と共に」とした。それが彼のそもそもの発想だった。
　彼はコンサート全体を三部構成にし、第１部を発表会、第２部を陽子の歌、第３部を参加者全員による合唱とした。日時は予定通り９月１９日の土曜日、時間は夕暮れ時の１６時から１９時とした。参加資格は、大人のための音楽会という趣旨から中学生以上とし、参加費は前打ち合わせの通り千円とした。以上のコンサート内容を記した後、用紙の下半分を出演申込書とした。そこにはグループ名、演奏者、演奏楽器、曲名の他に、グループ紹介の欄を設けた。それを参加予定グループに配布し、コンサートへ向けて動き出した。
　第１回のサザ・コンサートは６グループの参加となった。演奏楽器は、ピアノ、ギター、フルート、リコーダー、ウクレレおよびコーラスで、ピアノは隆の家から電子ピアノが持ち込まれた。出演者は約２０名になった。
　参加者は４０名ほどで、コンサートはとても楽しいものになった。第一部の音楽仲間たちによる頼りなくも真剣な演奏、第二部のプロの歌の味わい、第三部の参加者全員による合唱。終わって、
　「楽しかった」
　そう誰もが感じたようだった。
　「次はいつ？」
　そんな声がたくさん聞かれた。
　その声に押され、隆はこの音楽会を継続することを決めた。