街の小さな音楽会

　1998年の春。６人掛けの食卓テーブルに４人が座っていた。二人は夫婦で、二人は若い独身の女性だった。夫婦はすでに５０を越えたか越えないかの年齢だったが、子供がいないせいか、年より若く見えた。夫の名は隆、妻の名は明美と言った。
　二人の若い女性のうちの一人はソプラノ歌手の陽子で、もう一人は明美のフルート仲間の章子だった。明美と章子は３年ほど前から同じフルート教室で習っていて、彼ら４人はそのフルート研究会の海外研修旅行で知り合ったのだ。ポルトガルとスペインを旅したその旅行に、隆はスケッチを目的として同行し、陽子はスペインでのコンサートで歌うために参加していた。研修といっても大半は観光旅行で、ただ後半の一日、スペインの南の村、フリヒリアーナの教会でフルートコンサートが計画され、それに隆を除く３人は出演した。その旅行が４人の出会いだったが、その後も彼らは会う機会があり、この日、陽子と章子は隆のところに泊まる用意をして来ていた。
　「どうでしょう」
　食後の団欒の時に、隆は自分の計画を提案した。音楽好きの仲間が集まって小さな音楽会を開けないか、そこで陽子に歌ってもらえないか、というものだった。それまで、パーティーなどで明美らがフルートの演奏を二三度したことがあり、それを発展させられないかと、彼は考えていたのだった。
　「いいですよ」
　陽子は簡単に承諾した。
　「場所は母がやっている喫茶店でどう？」
　章子が提案した。
　「それはいい」
　「コーヒー付で一人千円にしよう」
　お祭り好きな明美も乗ってきた。
　「日時は９月１９日の土曜日でどう？」
　「決定！」